’99.9.8

                                                                                              NO.70

物語文で討論の授業〜「やさしいたんぽぽ」

                        

1.はじめに

 

 今回紹介する実践例は、物語文において討論を組織する授業である。

 原実践は、伴一孝氏である。氏はこの授業を、どの学年で行っても、ほとんど間違いなく討論になると言う。

 教材文は「やさしいたんぽぽ」(安房直子 作)であり、東京書籍2年下に収められていた冒頭の一節である。

 氏の言う通りの授業が成立するか、幾分修正しつつメインの発問へと助走のステップを踏みながら追試してみることにする。

 ここでの紹介は、対象学年を6年生とする。

 

2.授業の記録

 日付、タイトルを板書後、教材文を範読。(印刷プリント配布済み)その後の指示。


指示1
全員起立。黒板にぶつけるくらいの張りのある声で、1回読んだのなら座りなさい。どうぞ。
 

 


指示2
これを読んで、気付いたこと・感じたこと・思ったこと何でもいいです。

3つ以上ノートに箇条書きで書きなさい。時間は3分です。
 

 3分後。


指示3
3つ書けなかった人。赤えんぴつ持つ。「もっと早く書くこと!」とノートに書きなさい。
3つ以上書けた人。「よくできました」と書いておきなさい。
こんなのは、早く書けなくちゃいけません。

 

 


指示4
発表してもらおう。どれか一つ発表するものを選びなさい。選んだ人は、3秒間手を挙げておろしなさい。
それでは、1つしか書けなかった人から優先的に発言します。その後は自由に立って発言しなさい。どうぞ。

 

何かしらの感じ取り、読み取りをしたことを自由に一人一つ発言させる。

その際「〜と書きました。」と言わせず「〜ということに気付きました。」「〜と思いました。」と言うように促す。

また、久しぶりの討論の授業ということもあってか、一部の発言力のある子供からの発言が多く見受けられたので、ルールとしてできるだけ男女交互に発言できるように修正した。

力のある子供や一部の子供だけが、発言を優先していく形態を常にチェックし、折りに触れて修正したり、指導の手を入れたりしていく必要がある。


発問1
ノートに①と書きなさい。すぐ書くんだぞ。
このお話の季節をズバリ書きなさい。

 

T「みんな同じだな。さん、ハイ!。」C「春。」T「よーし。花まるだ。次・・・。」テンポよく進める。


発問2
②と書く。では、主人公は誰ですか。ズバリ一言で書きなさい。
 

 一人指名。C「女の子。」T「その通り。花まる。」


発問3
この女の子は、今、どこにいますか。その場所をズバリ一言で書きなさい。
 

 一人指名。C「野原です。」T「よし。花まる。3つ目だ。」

このように易→易→難とスモールステップで素早く授業を進めていく。

次の発問4と5は新たな試みである。


発問4
④。その野原は、この女の子の家から遠いのですか、近いのですか。どちらかを書きなさい。
 

全員書いたのを見計らって挙手させる。


遠い・・・・11人、近い・・・・・22人
 

 


指示5
11名の人起立。どうしてかな。言ってごらん。言ったら座ります。
 

 


・捨てるんだったら、遠いほうがいいから。
・5行目に「電車に乗って、どこか遠くへ」と書いているから。

 

 


指示6
反対意見の人どうぞ。
 

 


・「ねむっているうちに早く」とあるから、「早く」ということは近いところでなくてはだめだ。
・遠くまで行くと、ねこが起きてしまうかもしれないから。
・あの電車に乗ってどこか遠くへと願っていることは、遠くではないところにいるから言っている言葉だと思う。
・「日がくれて」と「さっきお母さんが言ったのです。」という「さっき」から遠くまでいけないことが分かる。
・「さっき」を辞書で調べると「ほんの少し前」ということだったので家から近いはずだ。

 

以上の意見が出された。そして、次のように教師の解を説明した。


説明
国語の学習というのは、言葉にこだわるということです。答えは、本文の中の言葉にあるのでしたね。

ここでは「さっき」という言葉が証拠になります。
したがって「捨ててきなさい」と言われてから、そんなに時間が立っていない、比較的近いところということになります。
本文からはなれちゃいけないのです。

 

 


発問5
さて⑤。この野原には、人が来ることがあるのですか?人が来ることがある野原だと思ったら○、人が来ることがないという人は×をノートに書きなさい。
 

 


○・・・・・23人 、×・・・・・10人
 

子供に挙手させたまま聞く。

「しっかりした証拠を握っている人は手を握りなさい。」15名ほどいた。


指示7
それでは、×の人から訳を聞かせてください。
 

 


×「泣いても泣いてもだれもいなくて」と書いているから。
×「だれもこない」というのが2回も出てきていて、強調しているので誰も来ないところだと思う。

 

 


指示8
○派の人証拠あるの?C「ある。」どこ?そこに指を置いてごらん。

では、教えてください。
 

 


・「もう、だれもいなくなった」ということは、前には人がいたということだと思います。
 

 この考えで、1名を除いて大方納得である。教師の解を補足した。


説明
誰も来ないのであれば、「だれも来なくなった」とか「だれも来ることがない」と書いてあるはずです。

「だれもいなくなった」ということは、前までいたのだけれど、「もう」そこから「いなくなってしまった」ということだから、先生の解釈では○です。
「もう」と「いなくなった」が根拠となるでしょう。

 

 


発問6
⑥さて、猫が出てくるな。どんな猫?(C「白いねこ。」)そうだな。
では、そのねこは、どこかから拾ってきた猫なのですか?それとも、家で飼っていた猫なのですか?どっちなんでしょう。
どちらかノートに書きなさい。

 

文章に食い入るように読んでいる子供たち。幾分、国語の学習らしくなってきた。

3分後、立場を決めさせ挙手させて、人数分布を見る。


飼い猫・・・・13人、捨て猫・・・・・20人
 

 討論になるには、ふさわしい分かれ方である。少ないほうから発言させる。討論のルールの鉄則である。


指示9
では、「飼い猫」だという人から意見を述べてもらおう。2〜3人述べたのならば、「捨て猫」派の人は反論するなり、考えをのべるなりして、討論に入っていってください。
 

 時間もなかったが、以下のような意見が自由に出された。以下、「飼い猫」派を(か)、「捨て猫」派を(す)とする。


(か)どこにも捨てねこという言葉は書かれていない。
(か)お母さんが「眠っているうちに早く早く」ということは、家で眠った飼い猫だから、捨ててこいと言ったのではないかと思う。
(か)「泣いても誰も来ない」と書いているので飼い猫。
(す)飼っているのなら、お母さんが「捨てて来なさい。」などとは言わない。
(か)ねこが子供を産んでしまったかもしれないと思います。
(す)拾って来たのなら、「戻してきなさい。」とか言うはず。
(す)飼っていたのなら「このねこ」と言わないで、名前をつけて言うと思う。

 

「どちらでしょうね。」と言って、ここではあえて解を示さなかった。


発問7
それでは、最後から2行目を読みましょう。「助けて、助けて、だれか助けて・・」ここでは、「助けて」を3回も繰り返しています。よほど助けて欲しいんだね。
ねこを助けて欲しいのでしょうか。これをA。それとも、自分を助けて欲しいのでしょうか。これをB。
どちらかを書きなさい。

 

 


ねこ・・・・・22人、自分・・・・・11人
 

 訳を言わせたかったが、チャイムが鳴った。

 時間を越えての延長はルール違反だが、ここでは教師の解釈を告げて終えた。


説明
女の子は、ねこを本気で助けようと思うのであれば、何かしらのことはできると思うのです。例えばお母さんに秘密で飼うことやこっそりお世話を
することもできるのです。だけど、そこまで思い切ることができない。家に持って帰ることはできない。だからといって捨ててはいけない。

そんな思いが心の中で複雑に絡まりあって、どうすることもできないでいる苛立ち、やるせなさ。そんな自分はどうすればいいのか分からないといった気持ちなのでしょう。
そういう今の自分を「助けて」と言っていると、先生は考えたいのです。

 

 1分オーバー。問題ある反省多い授業であった。

 

3.おわりに

伴氏の言う通り、子供の内部情報を豊かにしてメインの発問を打つということをねらったが、そこへつなげていく展開において、(指示2)は不要だったかもしれない。

6年生であれば、2回読むくらいで内容の大体を掴めないといけない。

また、本文のみに目を向けさせるのであれば、題名と作者名はこの場合不要であり、教材文のみ印刷して提示すればよかったと思われた。

全員発言を目指す意図からこの活動を設定したのだが、少々無駄な時間を費やした感がある。

また、メインの発問を(発問7)に持ってこようとしたのだが、時間不足。

しかも子供等に考えも促さず教師の一方的な解釈の押しつけ。反省しきりである。

 やはり、オープンエンドで解を示さずにチャイムとともに終わるべきだったと反省している。

 むしろ、(発問6)でじっくり書く活動・考える活動の時間を保障してやり、そこで思いきり意見が途切れるまで討論させたほうが良かったようにも思える。

 国語の学習の仕方を忘れていたのは、子供ではなく、教師自身であった。反省。

 

(教材文)

 やさしいたんぽぽ    あわ なおこ

 

 日がくれて、もうだれもいなくなった春の野原に、女の子が一人、立っていました。女の子は、エプロンの中に、小さな温かいものをかくしていました。

 野原の向こうを、電車が走りすぎてゆきます。

 あの電車に乗りたいなと、女の子は思いました。あの電車に乗って、どこか遠くへ行っちゃいたいなと・・・。

 女の子は、エプロンの中をそっとのぞきました。そこには、白い子ねこが、しずかにねむっていました。このねこを野原にすててきなさいとさっきお母さんがいったのです。

「ねむっているうちに、さあ、早く早く。」

と。

 でも、それから後は?それから後、すてられたねこはどうなるのでしょうか。だあれもいない野原で目をさまして、あたり一面まっくらやみで、だいてくれる人も、ミルクをくれる人もいなくて、ないてもないてもだれも来なくて・・・・・・。ああ、思っただけでもおそろしいと、女の子は思いました。

「助けて助けて。だれか助けて・・・。」

 女の子は、なきながらつぶやきました。

もどる       トップへ