クリスマスが来るその日まで何日も何週間も経ちました。
クリスマスの日にジョアンナはビロードの青いワンピース、黒い
エナメルの靴を身につけ、きれいに髪をとかして、7時半に寝室から
出て階段を降りました。
下の階に着いた時、大広間からおしゃべりする声が聞こえました。
話をしているのは大人たちです。でもジョアンナは、彼女が入る
ことが出来ぬようドアが固く閉ざされているのを知っていたので、
食堂に行き、もうグラスたちが並べられているか見ることにしました。
グラスたちは廊下の半ばにある暗い大きな食器棚の中にずっとしまわれた
ままです。この食器棚には2つ扉があり、なかなかうまく開かず、
大きな鍵が必要でありました。中ではグラスがひっそりと輝いています。
その中は素晴らしい、秘密の洞穴のようでした。その閉ざされた空間には
たくさんのものが、毎日の生活に必要でないたくさんのものが、
ちょっぴり魅力的なものがきらめきながらしまわれていました。
食器や、ガラスの小瓶、箱やクリスタル、ガラス工芸の鳥たちなど。
また中にはろうで出来たりんごが3つ、お皿に乗っており、そばには
銀の少年が立っていました。金の花の施された復活祭の大きな赤い
玉子の食器もありました。
ジョアンナはそれまで食器棚の奥のほうまでちゃんと見たことは
ありませんでした。開けることを許されていなかったからです。
時々召使いが2つの扉の間からのぞき見させてくれる、その時のみが
中を見るチャンスでした。パーティの日になると、食器棚の奥の陰の
中からグラスが取り出されます。明るく透明で輝いたグラスたちは
お盆の上でいい音を立てます。ジョアンナにとって、あのクリスタルの
いい音は、パーティの音楽そのものでした。
ジョアンナはテーブルの周りをぐるりと一回りしました。グラスたちは
既にそこに並べられ、冷たく美しい輝きを放っていました。
食器棚の奥から来たと言うよりも、まるで山の泉の中からやって
来たようです。
ろうそくには灯がともされ、その明かりはクリスタルに映っていました。
テーブルの上にはいつもは見られない素敵なものがたくさん
ありました。ガラスのボール、金色の松ぼっくり、赤いボールのついた
あの尖った緑の葉っぱのひいらぎの植木鉢。
パーティが始まる。クリスマスが。
それからジョアンナは庭に行きました。クリスマスの夜の星はいつもと
違うと言うことを知っていたから。
門を開けて、ベランダから階段を伝って下に降りました。外はきりりと
とても寒く感じました。リンデンやシラカンバ、桜の木々の葉が
はらはらと舞い落ちていました。木々の枝はまるで黒いレースの
ようです。杉の木の枝だけはすっぽり包まれて見えませんでした。
そして、とても高い木のずっと上のほうには、深い暗闇と空が
広がっていました。この暗闇の中、星は美しく瞬きそこにある何よりも
明るく光っていました。ここ、下の世界ではパーティがあり、それ
だからいろいろキラキラしたものがある。灯のついたろうそくや、
ガラスのボールや、クリスタルのグラスみたいに。でも空ではもっと
大きなパーティが繰り広げられているんだ。何百万も何百万もの
星たちで飾られて。
ジョアンナは暫くの間空を見上げたままでした。何も考えずに、
暗く輝く高い空の夜の闇に広がる幸せを見つめていました。
それから、家に戻ってドアを閉めました。
「まだ晩ごはんまでにはたっぷり時間があるわよね。」彼女は廊下を
横切っていた召使いにそう質問しました。
「ええ、嬢ちゃん、まだもう少しありますよ。」召使いは答えます。
ジョアンナはコックのジェルトゥルーデスに会うため台所に向かい
ました。彼女は特別な人でした。どんなに熱いものも火傷することなく
触れ、どんなに鋭いナイフでも怪我することなくあやつり、何でも
知っていてすべてうまくこなしました。ジョアンナは彼女を自分の
知り合いの中で最も大切な人だと思っていました。
ジェルトゥルーデスはかまどを開けて、クリスマス用の七面鳥2羽に
身をかがめているところでした。七面鳥をひっくり返してはソースを
かけています。七面鳥の皮はいっぱい詰め物をされた胸のところで
ピンと張っており既にこんがりと黄金色に焼けていました。
「ジェルトゥルーデス、一つ聞いて欲しいんだけど。」
ジョアンナは言います。ジェルトゥルーデスは頭をあげました。
その顔はまるで七面鳥のようにこんがりと焼けているようでした。
「なあに?」
「わたし、どんなプレゼントがもらえるかしら。」
「さあ・・・。」ジェルトゥルーデスは言いました。
「当てられませんね。」
でもジョアンナはジェルトゥルーデスの博識をとても信頼していた
ので、質問を続けました。
「じゃあ、私の友達はたくさんプレゼントをもらえるかしら?」
「どのお友達?」コックは聞きます。
「マヌエルよ。」
「マヌエルは、ダメ。プレゼントは1個ももらえませんよ。」
「プレゼントを1個も?!」
「もらえないですよ。」コックは首を振りながらそう言います。
「でも、なぜ? ジェルトゥルーデス。」
「だって、彼は貧乏だもの。貧乏人はプレゼントはもらえませんよ。」
「そんなこと、あり得ないわ。ジェルトゥルーデス。」
「でも、そう言うものなのよ。」ジェルトゥルーデスはかまどの蓋を
閉めながらそう言います。
ジョアンナは台所半ばに立ちつくしてしまいました。そう言うものなの・・・
と思いながら。ジェルトゥルーデスは世界中の全てを知っている、
と彼女は知っていました。毎朝肉屋の男や魚屋、果物屋の女と
討論をかわすのを聞いていましたが、ジェルトゥルーデスはいつも
正しかったのです。30年前から朝7時に起きて夜11時まで働いて
いるのです。彼女は近所で何が起こったか全て、人々の家の中で
何が起こったか全てを知っていました。どんなニュースもどんな人々の
噂も。お料理のレシピは何でも知っており、どんなケーキも作り、
どんな肉も魚も、果物も野菜も知っていました。彼女は間違えたことが
ありません。世の中を、物事を、人間を知り尽くしていました。
でも、ジェルトゥルーデスが言ったことはまるでウソのように奇妙なこと
でした。ジョアンナは台所で、考えこんでしまいました。
突然扉が開き、召使いが現れてこう言いました。
「いとこの方たちがもう到着されましたよ。」
ジョアンナはいとこたちに会いに行きました。
それから数分後に大人達も現れて、皆でテーブルにつきました。
クリスマスパーティの始まりです。
辺りはシナモンと松の香りに満ち、テーブルの上のもの全てが輝いて
いました。蝋燭が、ナイフが、グラスが、ガラスのボールが、金の
松ぼっくりが。
人々は笑い、おのおの「クリスマスおめでとう」と言い合いました。
グラスを鳴らす音がパーティの雑踏と喜びの中に響いています。
これらを眺めながら、ジョアンナは考えました。
(ジェルトゥルーデスは、勘違いしたに違いないわ。クリスマスは
全ての人のためのパーティよ。明日、マヌエルはきっと全てを
話してくれるわ。彼もプレゼントを貰っているに決まってるもの。)
こう考えることでジョアンナは少し気を取り直し、嬉しくなりました。
クリスマスの晩餐は、毎年同じでした。
始めにカンジャ(鶏のスープ)が着て、それからバカリャウアッサード
(干し鱈の焼いたもの)、七面鳥、玉子のプリン、ラバナダにパイナップル。
晩餐の終わりには全員が立ち上がり、ドアをいっぱいに開いて、
居間に入ります。電気は消えていて、クリスマスツリーの
ろうそくだけが灯されていました。
ジョアンナは9歳であり、クリスマスツリーを既に9回見ていました。
でも、見る度にいつもそれはまるで初めて見るように思うのでした。
ツリーからは、全てのものの上にまぶしく素晴らしく宿る光が輝き
溢れています。まるで、あの東方の三賢人をイエス様のところに
導いた大きな星のように。
これがクリスマス。
クリスマスだから、木は光で彩られ、その枝には素晴らしい、あの遠い
昔の夜に我らのイエス様がお生まれになったしるしの喜びの思い出が
飾られているのです。