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乳母
昔々あるところに、勇敢で若い王さまが住んでいました。彼はたくさんの都市と穀物畑のある王国の王さまでしたが、遠き
地での戦争に旅立たなければならなくなりました。悲しみに沈む
王妃とまだゆりかごにいる幼い赤子を残したまま、満月の夜に
征服と名声の夢を胸に抱き、旅に出たのです。
しかしある日、騎士のメンバーの一人がボロボロに傷つき汚れ、
戦いに破れたことと、王さまが死んだと言う知らせを持って現れ
ました。王妃は悲嘆と涙に暮れました。夫を亡くし孤独になった
悲しみばかりではありません。
愛しい我が子が、多くの敵のまっただ中に残されたからです。
彼を守ってくれたあの大きな腕はもうどこにもないのです。
これらの敵のうち、最悪なのは王と血の繋がりのなかった叔父
でした。嫉み深く極悪人で財宝と権力を欲しがる彼は、山の上に
ある城に住んでおり、狼が餌食を狙うがごとくいつも機会を
うかがっていました。この餌食と言うのはたくさんの地方を持つ
あの小さな小さな乳飲み子の、金のゆりかごの中でガラガラを
握りしめ眠る小さな王子です。
金のゆりかごの隣にはまた別のゆりかごがあり、やはり赤子が
眠っておりました。この子は美しく強い乳母の子どもであります。
乳母は王子とこの子の両方に自分の乳を与えていました。
どちらも夏の同じ夜に生まれた子供たちです。王妃は眠る前には
必ず金色でさらさら髪の小さな王子にキスをしに行き、また隣に
眠る黒くてちぢれ毛の乳母の子供にもキスをしたものでした。
どちらの子の瞳も美しい宝石のように輝いています。
ただゆりかごだけが違いました。片方は象牙で出来て美しい
レースのカーテンに包まれている素晴らしいゆりかご、もう
片方はみすぼらしい木製のかごでした。
忠実な召使いはどちらの子も隔てなく可愛がりました。
一人はかけがえのない我が子、そしてもう一人は王の子であった
からです。
乳母はその王の家で生まれ、自分のご主人様たちを心より好きで
した。王の死を彼女ほど悼んだ者が他にいたでしょうか。
地上での人生は空においても続くと信じる彼女は、王さまが
空の王国でもまたたくさんの都市と穀物畑を持ち、幸せに暮らし
ていることを堅く信じておりました。
また彼女は小さな王子のことを考えるととても不安になりました。
何度となく胸に抱いた小さく弱い王子、まだあんなに小さいのに!
あの、夜の闇よりも暗い顔の、その心はその顔よりも更に暗い、
王座を狙う残忍な叔父。
彼女が愛してやまない王子のことを考えると胸がはりさけそうです。
もはや女たちしかいないその宮殿に大きな恐怖が襲いかかりました。
あの恐ろしい叔父が道々で村を破壊しながら、やって来たと言うのです。
気高い男たちは皆あの戦争で死んでしまっています。
絶望した王妃はただ自分の子のもとに走り、自分の無力さを嘆く
のみでした。忠実な乳母だけが、なんとかしてこの尊い王子を守り
抜こうとしているようでした。
静かで暗いある夜、乳母が2人の赤子の間に横たわろうとした時、
不吉な予感がしたその瞬間に騒がしい音を耳にしました。
耳をすますと、重い足音と呻き声、それに体が床に倒れる音・・・。
そっと部屋から外を窺うとそこには男が2人おり、その手には光に
輝く武器を持っていました。
すぐさま事態を理解しました。宮殿への襲来です。あの叔父が
王子を殺そうとさらいに来たのです!
乳母はすぐさまためらいなく、王子を象牙のゆりかごから抱き上げ
隣りのゆりかごへ入れ、また可愛い我が子に狂おしくキスをしながら、
おくるみで包み王子のいたゆりかごに横たえました。
突然、大男が寝室のドアのところに現れ、象牙のゆりかごを
見つけるや、泣きわめく赤子をつかんでその口をふさぎ、
走り去りました。
王子はかの新しいゆりかごの中で眠っておりました。
乳母は静かで暗い闇の中で身じろぎもしませんでした。
けたたましい叫び声が突然宮廷中に響きました。髪を振り乱し
半ば裸の王妃が、悲鳴をあげながら王子の寝室に入って来たのです。
くしゃくしゃになった服のみが残る象牙のゆりかごを見るや、
床に泣き崩れ落ちました。
そこで乳母は、静かにゆっくりと、みすぼらしいかごの覆いを取り
去りました。そこには王子が静かに微笑みながら眠っていました。
王妃は大きな安堵のため息をついてかごを抱きしめました。
その瞬間宮廷が大きな叫び声に震えました。
あの残忍な叔父が死んだと言うのです!
しかし連れ去られた子供も殺されてしまっておりました。
王子は死んだ・・・・誰もがそう思いました。
涙をいっぱい浮かべ、しかし微笑みながら我が子を手に抱いた
王妃が現れるまでは。
人々は驚嘆し歓声をあげました。
一体誰が王子を救ったのでしょう。
一体誰が?
空っぽの象牙のゆりかごのそのそばに、彼女はおりました。
王子の人生を守るために、我が子を犠牲にした彼女が。
それから、幸せに浸った王妃は悲慟でいっぱいの乳母を
抱きしめキスをし、心からのお礼を述べました。
群衆の中で誰かが、王国の王子を救ってくれた彼女に報いて
あげるべきだと唱えています。
でもどうやって?
どんな財宝が自分の息子の代償になるのでしょう。
そこにいた老人がその宮廷にある豪華な金銀財宝の全てをそこに
運んで、選んだらどうかと言いました。
王宮の人々は皆王妃と乳母の後に従いついていきます。
宝箱を開くとその余りの素晴らしい財宝の数々に、皆息を
飲みました。部屋の中に立つ乳母はその箱の中を触ることもなく、
ただその瞳を、彼女の乳を求めて泣いたあの我が子がいる空に
向けたのでした。
乳母はふと微笑み、手をのばしました。皆いったいどんな
宝を選ぶのだろうと、息もせずその開いた手を見つめています。
ダイヤモンドのネックレスでしょうか、それとも?
腕をのばした先には一本の短剣がありました。
それは、エメラルドが散りばめられたとても価値のあるもので、
彼女が忠誠を誓ってやまない、あの勇敢な王さまの遺品でありました。
それを手に持ち空に向かってかかげ、王妃とそこにいた人々に目をやり、
こう叫びました。
「私の王子さまをお救いしました!
そして今・・・私の乳を求める息子のところに行きます!」
そう叫ぶやその短剣を深く胸に突き刺し、息絶えたということです。