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 さよならアルヴァラーデ1


 2001年に入って我が家は忙しくなりました。

3月20日過ぎには日本への帰国が決まっており、引っ越しの

手配をしなればいけない上に私のコンピューターがウィルスに

かかった末ハッカー騒ぎにまで発展しめまぐるしく、余裕の

ないままに時を過ごしていました。

また今年のポルトガルはことのほか天候が悪く、雨風嵐の

日々が続いていました。肺炎上がりの息子を連れて暴風雨の中

スタジアム通いをするわけにも行かず、2001年の1月2月で

スタジアムに行ったのはチャンピオンズリーグのホーム戦2回と

ポルトガル杯2回のみ。ソシオになった当初は全試合制覇と言って

いたものの現実は厳しいもんです。スタジアムがあんなに

好きだった息子も情けない試合をさんざ見るようになり、

最近はスタジアムに行っても(いい場面もないせいか)

つまらなそうでした。

 

 でも3月11日は最後のホーム観戦のチャンスです。

3月10日に息子を日本語補習校に朝送った後「どこに行こうか。」

と私が聞くと

「何言ってんだ。明日の試合のチケットを買いにスタジアムに行くんだよ。」

とダンナは言います。

ああ、そうか。ホームで見られるはこれが最後なんだっけ。

今週はずっとお天気悪かったけど・・・・明日は大丈夫かな。

スタジアムに到着しダンナはタクシーの中で待ったまま、私は

チケットを買うため降りました。いつものようにソシオカードを

3枚手にして、がらんとした早朝(と言ってももう朝9時)の

チケット売場に行きます。

チケット売場はコンクリの、ごついいくつかのでっぱりに丸い穴が

それぞれ空いているそこです。窓口6つくらいあるうち、1つだけが

開いていました。(値段表がかかっているから一目で開いている窓口が

分かるのです) その窓口から中を見ると、いつものチケット売りの

おばちゃんがいました。カードを出します。

「セニョーラはお金いらないよ。メニーノは年いくつ?」

「6歳です。」

「じゃあメニーノもいらないね。」

「あの、私はお金いらないんですか。」

「いらないよ。今回は特別だから。」

「え、ホントに払わなくていいんですか。なんで?」

「一昨日は『女性の日』だったからね。女性はタダになるんだよ。

 今回だけね。」

そう言いながらダンナの分のカードを受け取り、番号を入力したあと

チケットを1枚だけ発行してくれました。

「アデオシュ。」とおばちゃんが言うので

「アデオシュ。スタジアムで見られる、これが最後のジョゴ(ゲーム)

 なんです。私たちには。」と答えると意外そうな顔をして

「何で?」と聞きます。

「日本に帰るから・・・・23日にここを発つんです。」

「えっ。そうなの?」

「はい。リーグを最後まで見たかったからすごく心残りです。」

「そうなの・・・・・。 ポルトガルは好きだった?」

「大好きでした。特にスポルティングが・・・・。」

「がんばりなさいね。いいことがありますように。」

「ありがとう。スポルティングが優勝しますように。」

「ホントね、いい旅をね!」

 

 そうか、チケットを買うのもこれが最後なのね。

スタジアムで見るのもこれが最後なのね・・・・と思いつつタクシーに

戻ります。

「女の人は今回お金いらないんだって。」

「えっ、なんで。」

「なんか女性の日とか言うのが一昨日で、それにちなんでだって。」

「ああそう言えばそういうのあったなあ。」

それが土曜日のこと。

 

 翌日2001年3月11日、日曜日、その日はダンナが知り合いとの

おつきあいで朝から出かけてしまいました。そう言う時は息子と

ジョンと3人でごはんを食べに行くことが時々あったのですが、

この日もジョンと約束をしており、Martin Monizにあるジョンの

お気に入りのカレー屋さんに行くことにしました。

息子はジョンにえらくなついており、カレー屋さんに入るなりジョンに

サッカーをしようといいます。「ボンバァセクシーぃ」と最近わけも

分からず歌っているしょうもない歌を連発するとジョンが呆れたように

「しょうもないガキだなあ。」と笑います。「Sexy bombはないだろう。

 まだ6歳なのに。」

「カナダ人の友達が歌うらしいんだよね。」

「はははは、そうかー。しかし・・・・日本に帰ったらポルトガル語全部

 忘れてしまうのだろうなあ。」

「うん、子供は覚えるのも早いけど忘れるのも早いからね。」

「そっかあ。残念だなあ。もう次に会う時は、コミュニケーション

 とれないんだなあ。こんなにいっぱい話せるのになあ。」

「だね・・・・。 維持したいけど難しいよ。環境に慣れるには忘れて

 しまったほうがいいのかもしれないし。家で暫く話してみるけど、

 難しいかもしれない。」

「だよなあ。お、クリ、Record買ったのかー。」

「当たり前でしょ〜。あれ、ジョンも買ったの?」

「うん、俺は絶対にBolaは買いたくないからな。あのクソベンフィカの

 系列の新聞なんて死んでも買うものか。」

「んだあねえ。私もBolaとJogoは買いたくないよ。」

その時息子がマンチェスターユナイテッドの試合の話を始め、ジョンは

ちょっとムッとして「おい、マンチェスターユナイテッドは・・・・。」と

言いかけたあと「クリ、ヴァイパラォカラーリョって言ってもいいかな。」

と聞いてきます。(下品な罵倒語です)

「ダメだよ。すぐ覚えて連発するようになるから。」

「そっか・・・・おい、マンチェスターユナイテッドはメルダ(クソ)だ。

 チェルシーがイギリスでは一番いいクラブなんだよ。」

息子はちょっと言葉につまります。

暫く息子との押し問答の末、ジョンはどうやら洗脳に成功したようです。

「チェルシーが一番だ。」と風見鶏の息子は言うようになりました。

 

「ところでクリ、こんな話知ってる?」

「なに?」

「ヌーノ・ゴメスがスポルティングでプレイしたいって

 言ったらしいよ。」

「ええっ!」

「どうやらジョアン・ピントともう一度コンビを組みたいらしい。」

「それホント? だとしたらすごい嬉しいなあ。」

「まあ噂だけどねえ。」

「噂でも嬉しいなあ。実現したらいいなあ。ああ、絶対日本に帰っても

 ポルトガルの放送見たいなあ。なんとかなんないかなあ。

 もうスタジアムで見られないんだからせめてTVでだけでも見たいよー。」

「クリは今日のジョゴ見に行くの?」

「うん、これが最後のスタジアムだからね。絶対に勝って欲しい。」

「ははは。スポルティングは勝つよ。ほら、これを見なよ。」

と、ジョンは新聞の一カ所を指さしました。

「なに。」

「この結果表を見れば分かるだろう。今Avesは最下位だ。

 でもってアウェイでの勝利はゼロなんだよ。引き分けが3つ。

 あとはぜ〜んぶ負け。まず負けないね。」

「そうかなあ。スポルティング調子悪いからね。

 大体前回はAves相手に4-3だよ。かろうじて勝ったけど。

 点の取り合いでね。アンドレ・クルシュなんて自殺点入れたもん。」

「でもホームとアウェイは別だよ。前回はあっちのホームだろ。

 今日は勝つって。心配するなよ。」

「そうかなあ・・・・・。」

「それから今日はアンドレ・クルシュは出ないみたいだよ。」

「なんで? 怪我? ここのところ調子悪いしね。」

「新聞情報だから分からないけどね。」

 

 1時半から会って4時くらいに別れ、息子と私は家に戻りダンナの

電話を待ちました。ダンナから電話はありましたが、もう家に

向かってはいるものの道路がとても混雑しているので、間に合わない

ようならば先にスタジアムに行っていて欲しいとのことでした。

5時20分になりました。

ダンナに電話をしたらまだ4月25日橋を渡ったばかりと言うので、

息子と私だけ先に向かうことにし、雨が降るかもしれないと緑のカッパを

3つと、壁にいっぱいかけてあるスポルティングのマフラーを取り、

息子にスポルティングのユニフォームを着せ家を出ました。

 

 私たちの住むローマからアルヴァラーデのスタジアムのあるカンポ・

グランデまでは駅ひとつ隔ててすぐです。メトロに乗り込むと中には

いつものように、既に緑色のマフラーを巻いたりユニフォームを着たり

している人たちがいました。

「きょうかつといいねえ。」

「うん、今日勝たないとね。カンピアオンになれないよ。

 すっごく大事な試合なんだから。」

スタジアムの前はいつもよりすごい人。

これを落としたらチャンピオンになる可能性がすごく下がる。

ボアヴィスタは今週も勝って今52ポイント。ベンフィカは昨日負けたから

据え置きの44ポイント。スポルティングは45ポイントだから、勝てば

48ポイントになりトップのボアヴィスタとは4ポイント差まで詰められる。

ポルト現在44ポイントだけどはもし今週勝てば47ポイント。

それでもポルトは国際試合の関係で1試合不足した状態だから油断は

出来ない。なんにせよ今週は絶対に負けるわけには行かない。

スポルティンギスタたちも皆気合いが入っています。

 

 さてチケットなしで本当に入れて貰えるのかしら、と言う心配はまったく

無用で警備もいつもほど厳しくなく入り口をパス出来ました。

スタジアムに入りいつもの席に向かうと、スタジアムでいつも会うおじい

ちゃんとおばあちゃんがいました。

「オーラ!」「オーラ!」私と息子が挨拶すると2人もにっこりとして

「オーラ!」と返してくれます。

「久しぶりだね。」

「天気が悪かったから・・・・実はこの間の試合も来たんですが、違う

 席に座ってたんです。」

「ああ、そうなの。」

「今日、このジョゴが私たちがスタジアムで見られる最後の試合です。」

「えっ。」

「来週の試合も見られるけど・・・・ポルトでやるから残念ながら行けません。」

「どうして。日本に帰るの。」

「はい、今月の23日に発ちます。」

「おい、ボウズ、日本に帰っちゃうのか。」

「うん。23にちにかえる。」

「そうか・・・・・。 ポルトガルは好きかい?」

「だいすきだよ。」

「向こうでスポルティングの試合は見られるのかい?」

「見られないです。見られるとしても本当にホンの一部でしょう。」

「オーー、かわいそうに・・・・。」

「今回のチャンピオンズリーグを最後まで見られないのが

 とても心残りで・・・。」

「そうか・・・・帰っちゃうのか・・・・・。 でもまた来るんだろう。」

「ええ、是非戻りたいです。ただ遠いからいつになるか。」

「そうだね。日本は遠いものな・・・・。」

 

 しんみりしているところに、イネステイシェイラがやって来ました。

イネステイシェイラは息子の学校の同級生の女の子で、ママが熱烈

スポルティンギスタなので大体スタジアムで会います。

「私たちのところで一緒に見よう?」

「うん!」

「ママもいかない?」とイネスが言います。

「んー、この子のパパがまだ来てないからね。

 いつもの場所じゃないとあえないかもだから、ここで見てるよ。」

二人は手をつないで階段をのぼって行ってしまいました。

 

 フィールドではGKのネルソンが練習をしています。

今日はシュマイケルじゃないんだ。

この間イエロー食らったしなあ。

何より調子悪いもんなあ。

 

 ピーピーとブーイングが起こったと思ったら、Avesの選手たちが

練習のためフィールドにあがってきたところでした。続いて拍手が

起こり、スポルティングの選手たちがあがって来ました。

 

 メンバーは・・・・スペアーがいるな。ルイ・ジョルジュ、パウロ・ベント、

アコスタ、あれ、アンドレ・クルシュも入ってるじゃない?

ジョアン・ピント、おっ、エドゥミルソンもいる。この間ハット

トリック決めて一躍スターになったもんなあ。このままずっとレギュラー

獲得出来るといいなあ。ペドロ・バルボーザ、ベト、セーザー・プラテス

・・・・・うわ〜、ベストメンバーだ!(アコスタ以外は・・・・。(^^;))

 

 選手たちがランニングを始めました。

ここのところ悪天候が続いていたにもかかわらず、この日は比較的

晴れていました。日が沈むのも少し遅くなったので、フィールドはまだ

明るく、選手たちの表情がよく見えます。

見慣れた練習風景だけどこれが最後だなあ・・・・・。

今まで考えないように考えないように暮らして来たけど、スタジアムは

これが最後だなあ。楽しかったなあ。ここに来るのが。

でももう来られなくなるんだ。

 

 今まで意識して考えないように考えないようにして来た現実。

もうすぐ日本に帰るためポルトガルを去ると言う現実。

考えないようにしよう、と思いながらも涙が出て来ました。

うわー、どうしよう。涙出て来たよ。

なんでー、とまんないよ。

ああ一人で泣いてるなんて恥ずかしいよー。

鼻とか真っ赤に違いないー。

前の老夫婦はフィールドを見つめているのでこちらに気づいておらず

(こっち見ないでー。)と思いながら私もフィールドを見つめていました。

涙を拭くと後ろの人にも分かっちゃうし、だから出来るだけ顔には

手を持って行かないようにしていました。

違うことを考えよう。

選手の姿をよく見ておかなくちゃ。

ホンマもんの選手を目によく焼き付けておかなくちゃ。

ああ、勝ちますように、スポルティング。

 

(つづく)


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